いつも旅のなか

私はそのとき、恋人と、ある文学賞が、かなり切実にほしかった。恋人と文学賞というくみあわせにあんまり意味はない。しゃぶしゃぶ食べたいな、新発売のチョコレートも食べたいけど、というくらいの並列でしかない。

この旅行から帰ってすぐ、私は三十歳になった。今考えてみると、あの退屈な、自転車の遠出が唯一の大冒険だったネパール旅行は、以前の旅行と同じくやっぱり何かを示唆していたような気がしてならない。親切なだれかがどこかへ連れていってくれるのを待っていたってどうしようもない、先に何があるのかわからなくても、それがどんなにみみっちいことでも、自分ひとりで動き出さなきゃいけないときは少なからずある。それでも心配することはない、途方に暮れたとき周囲を見渡せば、自分に向かって差し出されたてのひらが必ずある。あの旅とそっくり同じようなことを、ごくふつうの日々で私が知っていくのは、三十歳をすぎてからだった。

面白かった。オススメです。