捩れ屋敷の利鈍 The Riddle in Torsional Nest (Vシリーズ)

良い道具には、それが道具であることを忘れさせてくれる機能がある。まるで魔法のように、それを使う人間の腕が上がったように錯覚させてくれる。人は、悪い道具を使ったとき、初めて道具を使っていること、道具のせいで仕事が上手く捗らないことを認識することになる。このことは、あらゆる手法、たとえば、言葉やマナー、さらには、健康や友人、そして愛情や恋人にも当てはまる法則であろう。

「きくことを思いつかなかっただけです。特に知りたいわけではありません。だいたい、お酒の席の会話って、そんなものではありませんか?」

「あと二時間で思いつこうと決めていただけです」萌絵は言った。「変ですか? でも、思いつこうと思わなければ、思いつかないでしょう? 考えなければ、アイデアは浮かびません。突然、何もしていないのに思いつくなんてことはないはずです」