恋恋蓮歩の演習 A Sea of Deceits (Vシリーズ)

海の上でただ独り、小舟で浮かんでいたとしても、孤独が味わえるかどうかは疑わしい。たとえば私の場合、孤独の信号を感じるときというのは、身近に大勢の人間たちがいる、そんな状況がほとんどなのだ。

いつの間に眠ってしまったのだろう。  だんだん怒りが込み上げてきた。  なんということ!  また、眠ってしまったのだ。  コンタクトはどうしたんだろう?  ビールなんか飲むからいけない。  金輪際、アルコールは飲まないことにしよう。  でも、お酒を飲まないと、ここに残る言い訳が見つからなかった。保呂草のビールにつき合っていれば、帰れとは言われない、と考えたのだ。  浅はかだった。  しかたがない、それは、たぶんしかたがない。  しかし、こうならないように、ちゃんとセーブして飲んでいたはずなのに……。

「そうだね、小鳥遊君は向いていると思う。だけどね、医者だって同じじゃないかな。直すように見えるけど、結局、悪いところを見つけて、取り除いているだけじゃない? 治る力は、もともと患者が持っていた能力だよね。社会が良くなるのも社会の力だし。人と人の関係が修復するのも、その人たちの能力によるしかないんだ。周りのものは、悪い部分を指摘することしかできない」