ムカシ×ムカシ X (講談社ノベルス)

なんとなく、こういうときに人間は、死にたくなるんじゃないだろうか、と考えてしまった。今の自分は大丈夫だが、危ないときもあったな、と思い出す。死ぬのは、本当に簡単なことなのだ。少なくとも生きることに比べたら、短い決意とほんのちょっとの勇気で実現する。それよりも、だらだらと傷つきながら生きながらえる方を選ぶなんて、いったいどういう了見だろうか、と思わないでもない。

今じゃなくても良いよ。以前でも、もっと昔でも、実在する人物で、名探偵っていう人、誰かいる? 歴史上の人物で、そういう人って、ただの一人もいないよね。大泥棒とかならいるのに……。だから、なんていうか、名探偵という人物が出てくるだけで、もうリアリティがないんだよね。現実離れしすぎているわけ。名探偵が登場したら、もうSFだよ」

たぶん、自分の今の気持ちは、以前のパートナを椙田に重ねて見ている結果なのだ。それが、本当のところだろう。でも、そちらへは考えないようにしている。考えるだけで涙が出るし、そんな健気な自分が、あまり好きではなかったからだ。こんな生き方しかできないのだから、好きも嫌いもないのだが、とにかく、嫌いな自分には触らないように、騙し騙し生きているといえる。