辞書を編む

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本当に必要なことばを集めるためには、まず、あらゆることばを「おもしろい」と思うこと。未知のことばはもちろん、当然知っていることばでも、改めて別の面から眺めてみて、価値を再発見する。そういう姿勢が不可欠です。見坊が、一握りの採用語を得るために、膨大な数の不採用語を集めたことは、大いに意味があった、その情熱的な営みこそが『三国』という辞書の個性を形づくったと、今の私は考えています。

ここで、『岩波国語辞典』の登場となります。『岩波』は、1963年の初版で、「右」について、簡潔な、しかも核心を衝いた語釈を施しました。
みぎ【右】①相対的な位置の一つ。東を向いた時、南の方、また、この辞書を開いて読む時、偶数ページのある側をいう。左。 (『岩波国語辞典』初版)  
方角による説明は他辞書と同じですが、〈この辞書を開いて読む時、偶数ページのある側〉という定義は非常に斬新でした。「右」の説明が、「そこにいるあなた」「○○ちゃん」を基準にするしかないことをよく踏まえています。辞書を使う人は、この説明を見てからページ番号を確認すれば、「右」がどちらかが分かります。