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深夜特急1 香港・マカオ

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深夜特急1―香港・マカオ― (新潮文庫)

深夜特急1―香港・マカオ― (新潮文庫)

ところが、屋台のオバサンはいらないという。初めは私が外国人だからサービスしてくれているのかと馬鹿なことを考えたが、そうではなかった。オバサンや客の必死の身ぶりでようやく理解したところによれば、ペンキ屋の彼がこういって立ち去ったらしいのだ。明日、荷役の仕事にありつけるから、この二人分はツケにしておいてくれ、頼む……。私は、失業している若者に昼食をおごってもらっていたのだ。自分が情けないほどみじめに思えてくる。情けないのはおごってもらったことではなく、一瞬でも彼を疑ってしまったことである。少なくとも、王侯の気分を持っているのは、何がしかのドルを持っている私ではなく、無一文のはずの彼だったことは確かだった。